2004年4月の発行なので少し古い気もするが養老孟司先生の「死の壁」を手に取ってみた。
理由は最近歳を取ってきて集中力が無くなって来たので、本をじっくりと読むということが難しくなってきた。
老眼にもなり、メガネがあってやっと読める程で、長時間読んでも、どうしても文字が頭に入ってこない。
そんな時にNHKのテレビで「まると養老先生」という番組をたまたま見かけた。
本を読むときに書いたその人の顔や声がわかっていると、脳内での文章がその人の声で再生され、語っている顔もぼやっと見えてくるので「本を読んでいる」というよりは「話を聴いている」という感覚に近くなる。
そんな意味もあって「養老先生の本でも読んでみるか」と書店に行き見つけたのが「バカの壁」と今回の「死の壁」。
どちらを読むのか少し迷ったが以前に「バカの壁」を手に取って読んだことがある。
しかしながら何故だか途中で読むのをやめたのか、それとも内容を忘れたのかまったく、詳細は思い出せない。
でも、一度読んだことがある(と思われる)本をもう一度読むのも「なんだかなぁ」ということと、それに子供の頃から抱く「死の恐怖」が少しでも和らぐものがあればということで今回は「死の壁」を選択。
Amazonの書籍紹介にも
ガンやSARSで騒ぐことはない。そもそも人間の死亡率は100%なのだから――。
誰もが必ず通る道でありながら、目をそむけてしまう「死」の問題。
死の恐怖といかに向きあうべきか。なぜ人を殺してはいけないのか。
生と死の境目はどこにあるのか。
イラク戦争と学園紛争の関連性とは。
死にまつわるさまざまなテーマを通じて現代人が生きていくうえでの知恵を考える。
『バカの壁』に続く養老孟司の新潮新書第二弾。
とあるのでちょっと期待して読み始める。
死体の人称
死の壁の1つ目の感銘ポイントは第4章の「死体の人称」。
死体の人称には「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」の3つの「死」があると。
この「人称」は英語で言う「I」「You」「HeやShe、It」と同じようなもので、「一人称の死」は自分自身の死、二人称の死は「親、子、親戚、知人」などの知っている人の死、三人称の死はそれ以外の知らない人の死という意味。
この中で養老先生は「一人称の死は観測者としての自分が無くなるので、そもそも考えても無駄」と。
これは前述のテレビ番組「まると養老先生」の中でも、「自分の死というものはもともとない。死というものを感じるのはいつも『他人の死』。身近な人が亡くなった、誰々が亡くなったと言うのはあるけど、自分が死んだことは自分はわからないでしょ?そんなわからないことを考えて恐怖しても仕方ないじゃないか」みたいなことをおっしゃっていた。
まぁ、そう言われればそう。
でもやっぱり「一人称の死」を考えると怖いよね。
また、死の準備も周りの人に迷惑をかけないように身辺整理くらいはできるが、身構えて何かを準備することはできないよ、と。
だって寝てる間に死んだらそんなこと意味ないでしょ、と
なるほどね。
なぜ人を殺してはいけないのか、その理由
次のポイント感銘は「なぜ人を殺してはいけないのか、その理由」。
これは簡単に言うと「元に戻せないから」だと。
例えば生きたハエを殺したとして、もとのように生き返らせられるか、もしくは造れるのか?と。
無理だよねぇ、だからダメだんだよ、みたいな。
まぁ、これは「そうだね」と。
人間とは「世間」のこと
次になるほどと感じたのは「人間って本当は世間のことなんだよ」という部分。
養老先生いわく「死」ということは明確に定義できていない。
心臓が止まった時が「死」、脳が活動を停止した時が「死」、細胞全部が死んだ時が「死」などと色んな意味での「死」がある。
なので明確に「ここからが『死』です」というのが決められないと。
でも実際はなんらかの方法で「生」と「死」を分けないといけないので医師が死亡診断書に時間を記載したその時間が「生」と「死」の分かれ目になっているだけだと。
それと、犬や猫に「間」をつけて呼ばないが「人」には「間」をつけて呼ぶことがある。
これは「人間(じんかん)」と読んで中国では「世間」を表すらしい。
で、死はこの「人間(じんかん)」から抜けることだと。
これに絡んで死刑制度や子供の間引きなどなど、「人」と「人でない人」との区別をいろいろと書かれています。
まとめ
あとがきに書かれているようにこの書籍は養老先生がお話された内容を編集者の方がまとめて書籍化されているようで、全般的にわかりやすい表現で書かれています。
この本で「死の恐怖」がなくなったとはまだ言えませんが、少なくとも「死」と言うものが特別なものではなく、本来身近にあったものを情報化社会が遠くに押しやってきたために見えにくくなり、その結果「見えないものの恐怖」として増幅されているのではないかと思われます。
もう一度、バカの壁にも挑戦してみようか。